【取引量46%減少】NFT市場は変わらない限り衰退を続ける理由

 2021年はNFTにとって飛躍の一年であった。今ではコレクタブルNFTを牽引するYuga LabsのBored Ape Yacht Clubが誕生するなど、成功を納めたNFTプロジェクトが数多く注目された。しかし、そんな好調なNFT市場にブレーキをかけるようなニュースが4月28日にNonFungibleによって報じられた。2022年の第一四半期におけるNFTの総取引量が2021年の第4四半期に比べ、46.96%も減少したのである。また、買い手も30.91%減少した。2022年にはMoonBirdsやYuga LabsによるOtherdeedなど多くの好調なNFTが登場し、NFT市場全体も盛り上がり続けているように見えたが、市場における需要量は減少していたようである。何がこのNFT市場の衰退を引き起こしているのか?また、いつまでこの衰退は続くのだろうか。

 

NonFungibleによるNFTマーケットレポート(2022年第一四半期)

https://nonfungible.com/news/corporate/nft-market-report-q1-2022

 

無法地帯のNFT市場が失う人々の「信用」

 現在誕生して間もないNFT市場には規制がなく無法状態になっている。したがって、株式市場では仮想取引やインサイダー取引といった明らかに違法な行為がNFT市場ではグレーゾーンになっており、それらは頻繁に行われている。ロイター通信によるとコレクタブルNFTのMeebitsが市場における取引額を誇大させるために異常な程の高値で仮想取引を行っていたことが報じられている。また、ツイッター上では村上隆氏が自身のNFTプロジェクト「Murakami.Flowers」においてインサイダー取引を行っていたことが指摘されている。

翻訳:(リリース直後に作成者である村上隆氏のみが知るレアリティ―の高いNFTをリリースと同時に購入したことを受けての海外ツイート)Takashi Murakamiがリリースと同時にレアなMurakami Flowersを購入していた。これは(倫理的に)間違っているのでは?

 

しかし、こうした行いが無法地帯であるNFT市場で罰されることはなく、追跡する主体も少ないことから表面化せず、水面下では市場価格を自分の思うようにコントロールするための仮想取引やインサイダー取引が多くのNFTプロジェクトで行われていることが推測できる。

 法整備が進まない限りNFT市場は衰退が止まったとしても、そこからの成長を見込むことはできない。なぜなら価値の「信用」を失うことになるからだ。NFTに限らず、この世界に存在する価値のあるものは人々の「信用」によって成り立っている。例えば、当たり前の話だが、「貨幣」もそうだ。人々が千円札一枚には「千円」の価値を保有する力があって、「千円」相当の価値がある物と交換できる力があると信じているからこそ「千円札」に千円の価値を生み出している。それに比べて、現状のNFTはどうだろうか。全く規制が存在せず、製作者側が道徳を無視して「偽りの」価値を創り出せるような状況では短期的な成長は見込めるかもしれない。しかし、人々が裏切られ「信用」を失ったときにその価値は地に落ちることから、現在の規制のないNFT市場を取り囲む環境は全くサステナブルなシステムであるとは到底言えない。

 一度規制が入れば、不必要なところまで規制が及んでしまい、web3の良さである「自由」、「平等」といったアイディアに傷が入るという意見もあるかもしれないが、可能性に満ちたNFTを含めた、web3.0の時代を長期的な視点で切り開いていくに規制は必要不可欠だ。

 

イノベーション」をもたらすことができていないNFT

 NFTの技術は革新的で多くの変化をもたらしつつあるが、イノベーションをもたらすことができていない。イノベーションで一番重要なことは社会にインパクトを与えることである。しかし、NFTの現状は一部の人間を経済的に豊かにしているだけにすぎず、社会に大きな変化を与えるには程遠いことが指摘できる。

 冒頭で示したように、2022年第一四半期の取引量と買い手が減ったことがNonFungibleによって発表された。しかし、取引額は前年とほとんど変わっていない(NonFungible)。ここから分かることは、投資家や可処分所得の多い一部の人だけが「豊か」になっていく動きが加速しているということである。また、買い手が減ると同時に売り手も2021年の第4四半期と比べて15.61%減少している(NonFungible)。つまり、参入者を増やして市場全体の規模を拡大しているのではなく、身内だけで出し合う資金を増やしてマネーゲームを行っているに過ぎないのである。パイを拡大するのではなく、一部の人間だけでパイの分け方をめぐって争っている状態が今の段階で起きている。NFTの技術が今後イノベーションを起こしていく方向とは真逆の方に今のNFT市場のベクトルが向いている。

 こうした現状が市場全体の衰退をもたらしていることは言うまでもない。単なるお金儲けの手段としてNFTという技術を使うのではなく、社会全体のメリットになるような使い方を模索し、イノベーションをもたらすことが今の課題だろう。

 

NFTの今後

 現在の仮想通貨市場における大暴落など、NFT市場を衰退させる要素は多く存在する。しかし、いま経験している衰退はNFTが社会にとって過去のものになったからではなく、転換期にあるからだと指摘ができる。本記事はNFT市場における投資層を否定するものではない。彼らはNFTをここまで成長させた立役者であり、今後もNFTを大きく影響し続けるだろう。しかし、投資層だけではなく、如何にして投資層とは全く別のマインドを持つ一般消費者ないしは社会全体を取り込んでいくかがNFT市場を大きく引き上げる、新たなweb3.0の時代を本格的に始動させる鍵になる。



参考:

https://nonfungible.com/news/corporate/nft-market-report-q1-2022

https://jp.reuters.com/article/fintech-nft-looksrare-idJPKBN2KF0HJ 

http://blog.livedoor.jp/itsoku/archives/59280982.html