ユーティリティーと「手段」としてのNFT

 仮想通貨市場が「冬の時代」に入り、ETHやビットコインがこの1か月間に大きく下落した。それに伴い、仮想通貨と密接な関係にあるNFT市場も大きな影響を受けた。多くの人が莫大な資産を失い、この成長市場に失望する人も数多くいたが、果たして一度バブルを巻き起こした仮想通貨・NFT市場はここで衰退してしまうのだろうか?

 他の産業に比べ、誕生したばかりで成長分野であるweb3.0の世界がここで幕を閉じることは到底ないと考える。むしろ、推測にすぎないがこうした状況を打破してくれるようなNFTプロジェクトや事業が誕生することを期待したい。また、NFT市場はまだまだ小さく、投資家や好奇心に溢れた人でしかほとんど市場が形成されていない状況で、これから一般人を巻き込んだ「イノベーション」が起こることが考えられる。

 市場は右肩下がりではあるが、熱狂ぶりは海外に限らず、日本国内でも見受けられる。6月28日にはNFT ART TOKYOが開催され、多くの人で盛り上がった。また、ゼガサミーとKADOKAWAを含めた4社は自社が所有するIPをweb3.0の時代において最大限に活かすために「オデン」というNFTサービスを企画・開発・運営する新会社を立ち上げた。

 巨大企業が大きな資本を投下するほど注目されてきているNFTであるが、本記事では原点に立ち返り、現在のNFTの価値を形成する一つの要素である、「ユーティリティ」について考察したい。投資家やNFT熱狂家が購入する際にアート自身よりも時には重視するユーティリティーであるが、それは今までどのように変化してきて、今後どのように変化していくのだろうか?

 

ユーティリティに価値が置かれなかった時代

 NFT界の重鎮ともいえるCryptoPunksはユーティリティよりも、現存するほとんどのプロジェクトよりも長い歴史があることからその歴史的価値や保有することによるステータスがCryptoPunksを保有するモチベーションになっている。また、ジャック・ドーシー氏によって出品されたツイッターの初ツイートNFTの高額落札にも同じことが言えよう。このNFTにも一番最初のツイートという歴史的価値に焦点があてられた。

 しかし、NFTが少し世間から注目を浴び始めるとその考えは一気に崩れ去った。あることが注目されていると人々はお金が動いている、お金を生み出す余地があると考える。そこで、短期のリターンを求める投機層が大量にNFT市場に流入してくることで、人々のNFTの価値は歴史的価値ではなく、急成長市場特有の大きなリスクに対する莫大な経済的リターンになった。また、供給側も需要者のニーズに答えるように、NFTの再販売やユーティリティーを通して経済的なリターンを保有者に与えることで市場で勝ち残ろうとした。

 

NFTの価値を支える「ユーティリティー

CryptoPunksのような歴史的価値があるNFTには「アート」としての価値があったといえる(ここでのアートの価値とは所有することでステータスや優越感を与えてくれるもので、保有者は価値があると信仰している状態を示しており、アートの経済的な利潤は副次的なものにすぎず、本質的な価値ではない)。しかし、今は「アートそのものの価値」がNFTの価値を支える時代ではなく、ユーティリティーがNFTの価値を支えることが主流となった。その最たる例がBAYC(ボードエイプヨットクラブ)である。BAYC保有者は古参も新規参入者も保有することで大きなステータスを感じている。

 しかし、そのステータスは「アートの価値」から誕生したものではなく、BAYCのユーティリティーとして付随してくる著名人などが多く入会しているBAYC保有者限定クラブに入っていることで生まれてくる優越感にすぎない。また、BAYC保有者は絵のIPを完全に保有することができ、一定のロイヤリティーを支払うことで商業目的に使うことができる。さらに、NFTという成長分野において経済的なリターンを期待して株式のように長期保有している人もいるだろう。実際に、Othersideといったゲーム事業も発表しており、それに関連するOtherdeedなどのNFTも無料でBAYC保有者に配られることから保有していることの経済的なリターンは現時点では小さいものでは決してない。

(余談であるが、BAYCの価値が全くなかった頃から保有していた人々は他の多くのNFTプロジェクトが次々と破綻していく中で、今のBAYCの大きなサクセスを予測していたという勝ち誇った気持ちが保有者に優越感を与え、保有の動機につながっているのかもしれない)

 

 こうしたユーティリティがアートより先行する状況はCryptoPunksとは異なる。世間からNFTが注目されてより市場が盛り上がるきっかけの一つをBAYCが作った以上、批判するつもりは微塵もないが、果たして対面イベントやグッズ購入権、先行アクセス権などをユーティリティと押し出しているBAYCを含めた現在のメインストリームのNFTは社会に良い刺激を与え、イノベーションを引き起こすような使われ方をされているのだろうか。

 この答えは誰にもわからないが、一つ指摘できることは現在のほとんどのNFTは「目的」としての使われ方をしており、多くのプロジェクトはNFTを売るということが最終的な目標になっている。しかし、一歩引いてNFTをある目標を達成するための「手段」として見た時、NFTならではの使い方とユーティリティが発見されると推測する。

 

NFTが可視化させるブランドへのロイヤリティー

 ここでは、視点を変えてBAYCといったコレクタブルNFTではなく、既存の企業のためのNFTとそのユーティリティのあり方について考察したい。

 今まで、企業がブランドロイヤリティーの高い顧客を見つけ出すためにはどのような手法があっただろうか。ポイントカードや会員登録などが主流だったかもしれないが、それぞれロイヤリティーがさほど高くない顧客でもポイントカードは作るし、会員登録もする。顧客単位でロイヤリティーの高さを把握できている成功事例は航空会社のマイレージクラブである。しかし、管理システムを構築するには莫大な費用がかかり、中々他の企業は模倣しがたい。

 企業がロイヤリティーとエンゲージメントが高いユーザーを特定することは重要である。ごく一般的なユーザーに比べてサービス使用頻度や購入頻度が多い分、社員よりも客観的に何が足りないか指摘ができ、彼らの行動を分析することも新しく有益な発見につながる。

 NFTはロイヤリティーの高い顧客を見つけることに長けている。まず、現時点でのNFT市場フェーズを踏まえると、NFT購入者が投資層が多いといった偏りはあるが、ブランドロイヤリティーが高い顧客と定義することはできる。また、NFTの価格帯を分けることで階層的にブランドロイヤリティーの高い順にグループで顧客を分けることが可能になる。

 これに付随するユーティリティーはアパレルブランドであれば、先行アクセス権やレアグッズの配布、対面イベントなどブランドのファンにとって有益なことでなければならないが、ユーティリティーがNFTの価値を担っているわけではない。人々はブランドに共鳴してNFTを購入すると思われる。さらに、NFTのユーティリティー次第ではブランドマーケティングにもなる。対面イベントを行えばその雰囲気やカラーがブランドに反映するし、NFT保有者限定のアイテムを贈呈すれば、洗練されたイメージを与えることに寄与できるかもしれない。

 

 たしかに上記の「手段」としてのNFTの使い方はNFTがなかった時においても実現できたと思う。しかし、システム構築や管理費用を考えるとNFTの方が効率的だという視点から考察をしている。NFTという新しい技術が社会を豊かにするポテンシャルがあるということは議論されているが、具体的にどのように使われることが一番望ましいのか、本メディアの一つの課題として探していきたいと考えている。

【取引量46%減少】NFT市場は変わらない限り衰退を続ける理由

 2021年はNFTにとって飛躍の一年であった。今ではコレクタブルNFTを牽引するYuga LabsのBored Ape Yacht Clubが誕生するなど、成功を納めたNFTプロジェクトが数多く注目された。しかし、そんな好調なNFT市場にブレーキをかけるようなニュースが4月28日にNonFungibleによって報じられた。2022年の第一四半期におけるNFTの総取引量が2021年の第4四半期に比べ、46.96%も減少したのである。また、買い手も30.91%減少した。2022年にはMoonBirdsやYuga LabsによるOtherdeedなど多くの好調なNFTが登場し、NFT市場全体も盛り上がり続けているように見えたが、市場における需要量は減少していたようである。何がこのNFT市場の衰退を引き起こしているのか?また、いつまでこの衰退は続くのだろうか。

 

NonFungibleによるNFTマーケットレポート(2022年第一四半期)

https://nonfungible.com/news/corporate/nft-market-report-q1-2022

 

無法地帯のNFT市場が失う人々の「信用」

 現在誕生して間もないNFT市場には規制がなく無法状態になっている。したがって、株式市場では仮想取引やインサイダー取引といった明らかに違法な行為がNFT市場ではグレーゾーンになっており、それらは頻繁に行われている。ロイター通信によるとコレクタブルNFTのMeebitsが市場における取引額を誇大させるために異常な程の高値で仮想取引を行っていたことが報じられている。また、ツイッター上では村上隆氏が自身のNFTプロジェクト「Murakami.Flowers」においてインサイダー取引を行っていたことが指摘されている。

翻訳:(リリース直後に作成者である村上隆氏のみが知るレアリティ―の高いNFTをリリースと同時に購入したことを受けての海外ツイート)Takashi Murakamiがリリースと同時にレアなMurakami Flowersを購入していた。これは(倫理的に)間違っているのでは?

 

しかし、こうした行いが無法地帯であるNFT市場で罰されることはなく、追跡する主体も少ないことから表面化せず、水面下では市場価格を自分の思うようにコントロールするための仮想取引やインサイダー取引が多くのNFTプロジェクトで行われていることが推測できる。

 法整備が進まない限りNFT市場は衰退が止まったとしても、そこからの成長を見込むことはできない。なぜなら価値の「信用」を失うことになるからだ。NFTに限らず、この世界に存在する価値のあるものは人々の「信用」によって成り立っている。例えば、当たり前の話だが、「貨幣」もそうだ。人々が千円札一枚には「千円」の価値を保有する力があって、「千円」相当の価値がある物と交換できる力があると信じているからこそ「千円札」に千円の価値を生み出している。それに比べて、現状のNFTはどうだろうか。全く規制が存在せず、製作者側が道徳を無視して「偽りの」価値を創り出せるような状況では短期的な成長は見込めるかもしれない。しかし、人々が裏切られ「信用」を失ったときにその価値は地に落ちることから、現在の規制のないNFT市場を取り囲む環境は全くサステナブルなシステムであるとは到底言えない。

 一度規制が入れば、不必要なところまで規制が及んでしまい、web3の良さである「自由」、「平等」といったアイディアに傷が入るという意見もあるかもしれないが、可能性に満ちたNFTを含めた、web3.0の時代を長期的な視点で切り開いていくに規制は必要不可欠だ。

 

イノベーション」をもたらすことができていないNFT

 NFTの技術は革新的で多くの変化をもたらしつつあるが、イノベーションをもたらすことができていない。イノベーションで一番重要なことは社会にインパクトを与えることである。しかし、NFTの現状は一部の人間を経済的に豊かにしているだけにすぎず、社会に大きな変化を与えるには程遠いことが指摘できる。

 冒頭で示したように、2022年第一四半期の取引量と買い手が減ったことがNonFungibleによって発表された。しかし、取引額は前年とほとんど変わっていない(NonFungible)。ここから分かることは、投資家や可処分所得の多い一部の人だけが「豊か」になっていく動きが加速しているということである。また、買い手が減ると同時に売り手も2021年の第4四半期と比べて15.61%減少している(NonFungible)。つまり、参入者を増やして市場全体の規模を拡大しているのではなく、身内だけで出し合う資金を増やしてマネーゲームを行っているに過ぎないのである。パイを拡大するのではなく、一部の人間だけでパイの分け方をめぐって争っている状態が今の段階で起きている。NFTの技術が今後イノベーションを起こしていく方向とは真逆の方に今のNFT市場のベクトルが向いている。

 こうした現状が市場全体の衰退をもたらしていることは言うまでもない。単なるお金儲けの手段としてNFTという技術を使うのではなく、社会全体のメリットになるような使い方を模索し、イノベーションをもたらすことが今の課題だろう。

 

NFTの今後

 現在の仮想通貨市場における大暴落など、NFT市場を衰退させる要素は多く存在する。しかし、いま経験している衰退はNFTが社会にとって過去のものになったからではなく、転換期にあるからだと指摘ができる。本記事はNFT市場における投資層を否定するものではない。彼らはNFTをここまで成長させた立役者であり、今後もNFTを大きく影響し続けるだろう。しかし、投資層だけではなく、如何にして投資層とは全く別のマインドを持つ一般消費者ないしは社会全体を取り込んでいくかがNFT市場を大きく引き上げる、新たなweb3.0の時代を本格的に始動させる鍵になる。



参考:

https://nonfungible.com/news/corporate/nft-market-report-q1-2022

https://jp.reuters.com/article/fintech-nft-looksrare-idJPKBN2KF0HJ 

http://blog.livedoor.jp/itsoku/archives/59280982.html

Bored Ape Yacht Clubの新プロジェクト「Otherside」について知るべきこと

 今年の3月にMeebitsとCryptoPunksを買収したBored Ape Yacht Club (BAYC) は激動のNFTの市場を牽引する存在である。そんなBAYCがNFT界を次のステップへと誘導しようと新たなプロジェクト「Otherside」を発表し、同時にそれに関連するNFT「Otherdeed」を発売した。多くの熱狂者は発売前から大きな期待を抱き、NFTは案の定ほんの数十秒で売り切れた。本記事では今NFT市場を大きく盛り上げている「Otherside」と「Otherdeed」について解説する。

 

 

「Otherside」とは?

 「Otherside」とはBAYCが新たに発表したゲームプロジェクトである。プロジェクトの詳細は現時点では公式に発表されてはいない。しかし、3月にリークした情報によるとBAYC以外にも、CoolCatsやWorld of Women、Cryptoazなどといった多くのNFTコミュニティーを巻き込んだMMORPG(Masively multiplayer online role-playing game、何百人ものプレーヤーと遊ぶオンラインゲーム)を構想しているとされている。ゲーム内には3月に新たに誕生した仮想通貨ApeCoinが使われる。また、ゲームの正式な発足前に関連NFTを発表することで多くの人々の期待をより大きいものにしており、その第一弾として「Otherside」プロジェクト関連のNFT「Otherdeed」を販売した。

 

「Otherdeed」とは

 「Otherdeed」とは「Otherside」ゲームプロジェクトに関連するNFTである。未だに具体的にどのようにしてゲーム内で活用されるのかは発表されていないが、ゲーム内の「土地」としての位置づけになることが予想されている。「Otherdeed」は4月30日の午後9時に55000個発売され、爆発的な需要から約45秒ほどで総額100億円以上のNFTが全て売り切れた。土地はApeCoinのみで販売され、価格はオークションではなく、一律305ApeCoin(約50万円)で販売された。また、公式は認めていないが、リーク情報によると200000個もの「Otherdeed」には「Koda」というレアキャラクターが隠されており、今までのBAYCのように保有者全員に同じような特権が与えられるわけではないようだ。

 既に多くの土地がOpenseaで再販売されており、投資家、Degenの期待に今回もYuga Labsは答えることに成功した。多くの「Otherdeed」は莫大な利益をあげて再販売されており、中には元値の500%の価格を付けたケースもある。

 ゲームプロジェクトが公式によって具体的に発表されていないにも関わらず、ここまで関連するNFTに需要が集まるということはBAYCのバブルが発生しているという推測もできる。今後次々と「Otherside」による関連するNFTの発表があることが見込まれるが、しばらくは高値を付け続けるであろう。

再び露呈した「ガス代」の問題

 ガス代とはイーサリアムブロックチェーン上の取引手数料のことを指す。手数料は一定ではなく、需要と供給のメカニズムで決定されるため、取引が集中するとガス代は増加する。ApeCoinはイーサリアムブロックチェーンを利用しているため、ガス代が発生する仕組みになっており、「Otherdeed」発売時にもガス代が急騰した。発売開始と同時にイーサリアムブロックチェーン上の取引の需要が上がり、中には2つの土地を買うために、2.26ETHものガス代がかかったケースがあったという。

 また、大量の取引が行われた結果システムがダウンし、取引が停止された人も多くいたため、Yuga Labsは返金作業を行った。

 今回の事例からブロックチェーンのシステムインフラの弱さが指摘でき、取引が失敗するような事態に陥らないよう強化することが急務だ。また、今後NFTや仮想通貨の市場が拡大していく中で「ガス代」といった根本的なシステムの再考や大規模な取引にも耐えられる環境を作っていくことが重要であろう。

【一時27ドル】Bored Ape Yacht ClubのApeCoinが一時的に高値を付けた理由とは

 4月29日にApecoinの価格は24時間で7%上昇し、大きな高値をつけた。一時、Apecoinは$27(流通総額270億ドル)まで上昇したが、現在(04/30 0:30JST)では$22にまで落ち着いている。

 Apecoinとは約一か月ほど前にApeCoin DAOによって発足されたBored Ape Yacht Club (BAYC) NFT コレクションに関連する新たな仮想通貨である。

 ここ一週間の動向を見ても、先週の金曜日と比較してApecoinの価格は67%の上昇を見せている(Binance)。

 

何がApecoinに高値をつけさせたのか

 ApeCoinは「ガバナンストークン(トークンにまつわるプロジェクトの運営に関わる議決権付きのトークン)」であり、保有者は一定の条件を満たすとApeDAOによる提案や計画に対し、自身の意見を投票を通して伝えることができる。したがって、ApeDAOのコミュニティーに属するにはトークンを保有していなければならない。

 4/29日にApecoinDAOが新たにAIP(APE Improvement Proposal、ApeDAOによる計画や提案)を更新し、投資家たちが新たに投票権を獲得するために買いが集まり、高値につながった可能性が指摘できる。

 

翻訳:コミュニティーはDAOの今後を決めていくためのアイディアをAIPsの形式で提案しています。以下のスレッドを参照して現在進行している投票とApeCoin保有者またDao memberは本投票に参加可能なことを確認していただきたいです。

 

 現在、コミュニティーには5月4日に閉じるAIPが3つ掲載されており、それらの概要は以下になる:

  • AIP-21、AIP-22においてはApecoinの「ステーキングシステム」についての提案を掲載している(ステーキングとは仮想通貨を保有することでブロックチェーン内に参加していることに対してもらえる報酬のことを指す)。
  • AIP-7では技術的でない提案に対する投票を行っており、APECoinの採択過程のプロセスやシステムを再構築することへの是非を投票でコミュニティーへ聞いている。

 以上の提案に限らず、過去の全ての提案をDAOの投票プラットフォームSnapshotで拝見することが可能だ。

 

ApeCoinの今後

 BAYC、Meebits、Cryptopunksを3月に買収したYuga Labs はApeCoinを使った独自の「経済」を創り出すことを目指しており、それに伴い今後多くのプロジェクトや関連情報が発表されていくことが予想できる。

 また、NFTに限らずクリプト界においても多くの人が注目している。ApeCoinの動向にも期待したいが、長期的にはYuga Labsが誰も想像できないような革新的な世界を作り上げてくれることに期待したい。

43億円がブロックチェーン上で永久的にアクセス不可能に、Akutar NFTを襲った悲劇とは

 多くの投資家とファンから長い間期待されていたNFTプロジェクト「AkuDreams」が22日に発足したが、思いもよらぬスタートとなった。ブロックチェーン上で条件が満たされると自動で仮想通貨の処理が行われるスマートコントラクトにおけるコードの欠陥に気づくことが出来なかったプロジェクトチームが多数のエクスプロイトによって約3400万ドル(約43億円)のイーサリアムが永久的にアクセス不可能になった。「エクスプロイト」とはソフトウェアの欠陥を突いて悪意のある不正な動作を行うプログラムのことである。

 悪夢を見たAku NFT

 Akuのプロジェクトチームは一連の事件、過ちの全ての責任を負うことを表明し、被害を被った方に向けた返金の計画をTwitterを通して発表した。また、膨大な損失を目の前にしたプロジェクトチームは謝罪と共に、ジョンソン氏は「一年前の何もなかった状態と同様、一からコミュニティーの信頼と価値を作り上げていくだけだ」と前向きな姿勢を見せている。

 

 Akutar NFTを立ち上げたのはアメリカの元MLB選手のミカ・ジョンソン氏であり、引退後に興味を抱いていたアートの世界に足を踏み入れ、巧みなストーリー構成能力と共に宇宙飛行士の「Aku」をコレクションとして展開し、NFTで成功をおさめている。

 また、本プロジェクトではAkuの保有者は新サービス「Akuverse」を使うことができ、ユーティリティとして将来的なプロジェクトやコラボレーションに優先的なアクセスを得ることができる。

 膨大な損失の原因は何だったのか?

 仮想通貨に関連する技術は約10年の間に瞬く間に普及したものの、実際のコーディングといったテクニカルな部分の知識を持ち合わせる人は極めて少ないことが指摘できる。そして、今回のAkutarの件では複雑なコードについて詳細に理解できる人がプロジェクト内にいなかったことが原因の一つだといえる。また、第三者機関に依頼をして複雑なコードの監査を行えば防ぐことができた損失であっただろう。

 しかし、驚くべきことは膨大な損失をAkuコミュニティー全体が被っても、大半が前を向き、ポジティブなコメントを残していることであり、Twitterでもコミュニティーの結束の強さが伺える。これは株式市場においては考えられないことであり、仮に株式市場において投資家たちが損失を被れば、直ちに大規模な訴訟が繰り広げられることが予測できる。

 

 今回の出来事で人々が恐怖を抱き、さらなる発展の可能性を持つNFT市場に歯止めがかからないことを願うと共に、ここまで強固なコミュニティーをゼロベースで作り上げたミカ・ジョンソン氏の「カムバック」には注目すべきものがある。

【取引額400億円】Moonbirdsが1週間で400億円を超えるほどの成功をおさめることができた理由

 Proof Collectiveから新たに販売されたPFP(プロフィールピクチャー)NFTである「Moonbirds」はNFT市場において前例がないほどの盛り上がりを見せた。

Proof Collectiveとは

約1000人にものぼるNFTアーティストとコレクターによって構成されているメンバー限定の組織(クラブ)であり、先日OpenSeaで発売された Moonbirds はそのクラブへの入会権を保有者に付与する。

Moonbirdsとは?

 Moonbirdsとはイーサリアムブロックチェーン上にある10,000種類のNFTコレクションであり、それぞれのフクロウの絵にはユニークな特徴がある。しかし、「アート」そのもの以上に大事なことはそのフクロウの絵が所有者をメンバー限定クラブへ入会させることである。そして、長期間にわたって保有すれば、所有者に様々なメリットを与えてくれる。

 本コレクションは4月16日の午後12時(東部時間)に販売され、一瞬にして世界中のコレクターたちによって完売した。現在(2022年4月23日時点)では総取引額は400億円を超えており、長い期間NFT市場のトップを走っていたMAYCやAzuki、CloneXをわずか数日で追い抜いている。

 なぜ Moonbirds NFTはここまで成功したのか?

Moonbirds のここまでの短期間の成功を裏付ける一つの理由は Proof Collective を動かす「人」である。同社はプロジェクトのチームが経験豊富であることを自負し、他の成功しているNFTコレクションがそうしているようにそれぞれのメンバー情報を全てオンライン上に公開している。

 Proof Collective の創立者はケビン・ローズ氏、ライアン・カーソン氏、ジャスティン・メゼル氏である。3人はweb2においても名をはせた人物tたちであり、特にローズ氏は過去に数々のベンチャーを立ち上げ、多くの成功体験を積んでいる。

 また、同様にカーソン氏も起業家兼投資家である。過去には会社や非営利組織の立ち上げを経験しており、対照的にメゼル氏はグーグルやツイッターフェイスブックといった大企業をクライアントとして持つデザイナー兼イラストレーターとして活動していた。

 以上のように Moonbirds プロジェクトのメンバーが多様な方面において経験豊富であったことがここまでの成功に導いた一つの理由であることは言うまでもない。

 

アートの価値だけで語ることのできない、NFTにおけるユーティリティの重要性

 もう一つの成功理由を挙げるとすれば、保有者に長期間に(主に経済的な)メリットを与え続ける「ユーティリティー」である。まず、Moonbird 保有者は Proof Collective の限定DIscordにアクセスすることができる。ここでは、Proof の創業メンバーや他の Moonbirds 保有者と関わり合うことができ、巷ではなかなか出回ることのない有益な情報を得ることができる。

 また、Moonbirds 関連の新たなNFTに優先的にアクセスすることが可能になり、対面イベントや保有者限定の新たなプロジェクト(Moonbirdsに関連したメタバース)を体感することもできる。

 さらに、Moonbirdsにおいて見逃すべきではない重要な要素の一つは「Nesting」(ネスティング)である。ネスティングとは保有者のウォレットとMoonbirdsを連結させることであり、連結中は売却することはできないものの長期間連結していることで今後発表が期待されるグッズなどの多様なベネフィットを享受することができる。このように保有者と長期的な関係を持続させ、背景にはMoonbirdsの価値も保持させていく戦略があることは明らかだろう。

今後どのようなユーティリティーが新たに追加され、Proof Collectiveはどのようにコミュニティを強化していくのか多くのコレクターたちが注目している。

  「アート」本来の価値はどこへ?

 本来アートの価値を図れるものはなく、極めて主観的な事柄にはなってしまうが、プライベートコミュニティ(クラブ)への入会権や新たなNFTコレクションへの優先アクセス権などといった「ユーティリティー」が重視されているのが今のNFTである。

 

 

 Daniel Tenner氏は「ケビンとライアンは『アート』を売っているのではなく、NFTで資金を生み出し『商品』を作り上げているということを明確にしている。」とツイートしている。ここでいう「商品」とは消費者に経済的な利益をもたらす金融商品という意味の方が近い。つまり、本NFTコレクションでは従来のアートの美しさはほとんど無視されていたことが指摘でき、本体に付随するものに全ての価値が込められていると言っても過言ではない。

 Web3.0の時代におけるNFTの期待されていたことの1つは、中抜きを行う従来のプラットフォーマーがいないことからチャレンジャーによって人々を感動させるようなクリエイティブが世に送り出されるということだった。しかし、アートの「美しさ」が無視され、Moonbirds のように損得だけが重視されすぎている世界が現状のNFTの一側面と言えるだろう。